代表挨拶

yoshikawa
 呼吸器を介して有害化学物質や感染病原体が体内に侵入して、様々な健康障害が起こることが知られています。鉱山や炭鉱で働く労働者のじん肺や肺がん、石綿関連産業に従事する労働者のじん肺や悪性胸膜中皮腫、鉛やクロム、インジウム等の重金属を取り扱う作業者の健康障害もよく知られています。また、病院等で空気感染する結核等に現在でも多くの医療従事者が職業感染しています。これらの吸入性有害化学物質・感染病原体から身を守るために、多様な種類や型の防じんマスク(呼吸用保護具)が開発され、利用されています。一方で、防じんマスクは一見単純にみえるため装着すると効果があるように思いがちですが、適切に着用できていないとその効果が十分発揮されないことも知られています。

 フィットテスト研究会は、新型インフルエンザの大流行時(2009年)の反省から、多くの医療従事を呼吸器感染から守る必要性が指摘され、マスクの顔面への密着性を促進する技術や手法(フィットテスト)を研究しその普及を図る目的で、2010年に設立されました。これまで、医療関係従事者等に対しフィットテストインストラクター養成講座を開催し、2017年度までに28回を全国で開催しました。750名以上の熱心なインストラクターが誕生し、医療従事者を守るためのフィットテストの普及に全国で活躍しています。近年はインストラクターのネットワークが広がり、様々な教育や現場での職業感染管理などの改善活動が展開されるまで広がっており、これはまさに感染管理や産業保健に携わる方々の成果と嬉しく思っています。

 一方、産業現場での呼吸器保護の取り組みは、防じんマスクの規格の制定や着用の義務化、各企業の取り組み、保護具メーカーによる支援などが進んできました。しかし、防じんマスクの顔面への密着性を促進する技術や手法(フィットテスト)に関しては、その普及や啓発が必要と感じています。特に、アスベストなど吸入性有害化学物質による健康障害は過去のものではなく、現在も解体作業などで多くの労働者が曝露し、新規有害化学物質への曝露防止としても、呼吸用保護具をまず先に「適切に」利用すべき機会が増えてきています。

 本研究会は、呼吸用保護具の適切な利用にあたっての「フィットテスト」に焦点をあて、フィットテストの実施と指導を現場で行うフィットテストインストラクターの養成とともに、フィットテストに関する学術的研究と普及について、研究者、労働衛生専門家、実務者等の交流を積極的に行っていきます。本研究会がフィットテストに関する呼吸用保護具の適正な使用と選択に寄与することができればと幸いです。

2018年7月
フィットテスト研究会 産業部会
代表  吉川  徹